温泉には興味がなくて温泉旅館には全然行かないので、温泉むすめという擬人化キャラが数年前からメディアミックス展開されていることを知らなかった。仮に知ったとしてもよくある類型でしかなく、興味を惹かれることはなかっただろう。温泉むすめの存在を知ったのはフェミニストに糾弾されて炎上してからである。
曰く、「温泉むすめのキャラクター設定は女性に対する誤った見方を助長するものであり、そのようなものは是正されなければならない」とのことである。たしかに、女性に対する誤った見方を助長することには反対だし、それが表現の自由では済まされないくらいに悪影響があるとしたら、もしかしたら何らかの介入の可能性について議論する余地がある。
しかし疑問に思うのは、以下の点である。
- オタクは二次元と三次元とを区別しており、二次元キャラに対する妄想とは裏腹に、三次元の女性に対してはとても従順である。果たして温泉むすめに限らずこの手の二次元美少女キャラは三次元の女性に対して誤った見方を助長しているのか。
- 三次元の女性を商品化して、実際に三次元の女性に対して誤った見方をしている層はおそらく存在するのだろうが、その層に占めるオタクの割合はそんなに高くなく、そもそも二次元キャラの存在すら認識していないのではないか。温泉むすめがどのようなものであれ、そのような層は女性を商品化している。
- 女性に対する誤った見方を是正するために戦うことを辞さない人が真っ先に戦うべき相手は、現に女性を商品化しているヤクザであるはずなのに、実際に矛先を向けているのは見た目が気持ち悪そうでかつおとなしそうで、三次元の女性を商品化しているかどうか定かでないオタクである。
- 自分よりも弱そうだから叩くという態度は、建前が何であれ、叩きたいという動機によるものではないか。さらに掘り下げれば「他人が楽しんでいるのが気に食わない」という僻み根性ではないか。
この手のことは実は昔からあって、お下劣なテレビ番組が子供の間で流行するたびにPTAがクレームをつけていた。曰く「子供の教育に良くない」と。たしかの子供同士の遊びの場で「ウンコチンチン」とか「あんたも好きねえ。じゃあちょっとだけよ」とかやることもあっただろう。その子供が大人になってから取引先に対して「ウンコチンチン」とかしていたら、まさに子供の教育に悪影響を与えたといえるが、果たして大人になって本当にそんなことをしている人が一体どれだけいるだろうか。もし実際にそんなことをする人がいるとしたら、それこそ本宮ひろ志の漫画の主人公並に肝が据わっている(「ウンコチンチン」するサラリーマン金太郎とかいたらどんな感じだろうか)。
クレヨンしんちゃんもPTAから攻撃された作品の一つだが、作者は作中でそれに対する回答を提示している。そのメッセージは「子供はそれほど馬鹿ではない」というものである。世の中の変化とともに影響力のあるコンテンツも変化したが、一貫して言えるのは「オタクはそこまで馬鹿ではない」ということである。
では親の側はどうかといえば、家庭で子供と一緒になって「ウンコチンチン」して楽しんでいる大人がわざわざテレビ局にクレームをつけるとは考えにくい。自分の人生を楽しんでいる人は他人に干渉しないものである。そして楽しんでいる他人が気に食わなくて人に言いがかりをつけるような人は、自分の人生を楽しめていない。楽しめないのは、「べき論」に凝り固まって本来やりたいことを我慢しているのではないだろうか。我慢することをやめて萌えキャラに素直に萌えるようにしたら内面に平和が訪れるかもしれない。冒頭に述べたように、好きの反対は無関心である。嫌いなのは興味があるからであり、好きの一歩手前である。そうでなければわざわざ一般人が気にも留めないような細かいキャラクター設定までいちいち調べ上げて揚げ足を取ったりしない。