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65歳定年は必要か

年金支給開始年齢が65歳に引き上げられるのに伴い、65歳までの雇用が義務付けられるようになった。国が年金を払えないから企業に肩代わりしてもらおうということである。しかし、定年が65歳に引き上げられて実現するのは、給与の後払いが65歳までの期間に延長され、後払いが平準化されることである。すなわち、生涯賃金が変わらないまま会社に時間を拘束される年数だけが増えることになる。

もちろん、年金会計や財政が危機的な状況にある以上、何らかの形で痛みを分かち合わざるをえないのかもしれない。しかしそれでも、いやそれだからこそ無駄なことをしている場合ではないのではないか。

日本企業の長期雇用における賃金カーブは、若年期には企業が育成コストを負担し、働き盛りの時期には企業が育成コストを回収する。さらにしばらく企業が給与の後払いの原資を確保し、高年期には給与の後払いがなされる。育成コストの回収と、忠誠心を引き出すための給与の後払いが組合わさっている。

後払いの原資は働き盛りの時期に確保済で、これはその後増えることはない。あとは何年かけて後払いするかの問題でしかない。60歳定年なら60歳までかけて後払いするし、65歳定年なら65歳までかけて後払いするまでのことである。昔のように55歳定年なら55歳までかけて後払いすることになる。定年が過ぎれば雇用が終了するか、時価で再雇用するかである。

そのような状況で効率的なのは働き盛りの年代の終わる頃、おそらく45歳から50歳頃に後払い分の給与を退職金として一括払いし、その後は時価で雇用することである。まだ働きたい人は時価で働けばよいし、引退したければ早く引退すればよい。

給与の後払いの金額が一定のもとで、引退するか時価で雇用されるかの選択の幅を広げるためには、定年は早ければ早いほどよい。定年が遅いと、早く引退したい人まで無駄に時間を拘束することになる。昔なら窓際族という潔い道があったが、目先の利益に厳しくなるとそういう悠長なことはできなくなって、尤もらしい仕事を作ることになる。本来目的達成に資する業務を遂行するはずの組織で、仕事のための仕事がまかり通ることになり、組織の規律を損ねることになる。

たしかに、定年を引き上げてもそれをバイパスする方法はある。一つは早期退職優遇制度(buy out)であり、もう1つはいわゆるリストラである。しかし早期退職優遇制度のもとでは優秀な人から退職する傾向があり、リストラとは会社都合解雇の難しい日本においては陰湿な嫌がらせをして退職に追い込む行為を意味する。いずれにせよ労使双方に無駄なコストを課すのみである。それならばいっそのこと定年を引き下げてその後は時価で雇用か引退かという形の方が互いに不愉快な思いをしなくて済む。

定年を引き下げる場合の問題点としては、日本企業の場合、定年後の再雇用者はラインから外れてヒラになるため、年下の部下のもとで働くことになる。しかし、それは賃金と職制の設計の問題であり、賃金の如何によらず管理職にふさわしい人は管理職として起用すればよいことであり、もしふさわしくなければ年下の上司のもとで働くことになっても致し方ない。実際にはそうするくらいなら引退することを選ぶことになるかもしれないが。しかしだからといって定年を引き上げれば引き上げたで、同じ問題が発生することは避けられない。だとしたら引退するという選択肢があるに越したことはない。

結局のところ65歳定年なんて、年金支給額を減らしたい国によるまやかしでしかなく、年金を含む収入は減るし拘束時間は増えるし会社も余計な仕事を作らなければならないし、労使双方にとってメリットが乏しいのではないか。年金支給額を減らさざるをえないという現実を受け入れた上で、労使双方のためになる仕組を考えた方がよいのではないだろうか。

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