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新幹線の車内サービスに情報技術を

N700系では無線LANを利用することができる。もともと新幹線には通信回線があり、余った帯域を一般乗客に開放するために、車内に無線LANのアクセスポイントと移動局を設置している。しかし、もともとが余った帯域でしかなく、1編成で下り2Mbps、上り1Mbpsしかない。大半の乗客がインターネットにアクセスしたらアナログモデム並みの速度にしかならない。

ボトムネックは列車と地上との間の通信なので、ここを通過するデータ量を減らせばよい。すなわち、列車内で完結するサービスを提供すればよい。そうすることで、せっかく設置した無線LANのアクセスポイントを有効に活用することができる。もちろん、「だったら沿線にWiMaxの基地局を設置すればよいではないか」という考え方もあるが、それだと従来の無線通信の延長でしかないし、そもそも携帯電話の帯域なら既に十分に提供されている。また、WiMaxの基地局増設は正攻法だがお金がかかるため、もともとの「余った帯域の有効活用」という趣旨に反する。そして何よりも、単に通信回線を提供するだけというのは勿体ない。せっかくだから、車内の無線LANならではのサービスがあってもよいのではないか。

では、どのようなサービスなら列車内で完結するのだろうか。真っ先に思いつくのは、車内雑誌やパンフレットなど、従来から無料で提供されてきた印刷物の電子版を提供することである。日本では電子書籍がなかなか普及しないが、無料で配布する印刷物を電子化する分には誰も反対するまい。これは車内のサーバにデータを置いておくだけでよい。地上との通信については、成田エクスプレスや京葉線のE233系のように、駅や車両基地にWiMaxの基地局を設置すればよいだろう。

東海道新幹線で提供されている印刷物というと、グリーン車向けには「ひととき」と「WEDGE」が提供されている。WEDGEは車内販売や書店で有料で販売されている。駅では、冊子型の時刻表が提供されている他、各種切符や、エクスプレス予約の宣伝や、「そうだ、京都行こう」「Shupo」など、行楽地を紹介した印刷物が大量に配布されている。これらは紙媒体向けの版下が存在するので、そのままPDFとして配布すればよい。これは今すぐにでもできる。ちなみに、東海道新幹線の時刻表は既にJR東海のウェブサイトで配布されている。また、JR東海ツアーズのパンフレットは既にE-Bookで配布されている。この手のPDFやE-Bookはサイズが大きいのでインターネット経由でダウンロードするのはつらい。新幹線車内無線LANで高速にダウンロードできなければ読もうという気にならない。

現在紙で配布されていなくてもPDF化すると便利なのは、車内販売のメニューや、駅構内図(構内の店舗案内を含む)である。鉄道会社が乗客向けに提供している情報は膨大で、それに一通り目を通すだけでも退屈しない。インターネット回線のリソースは稀少なので課金が必要だが、車内LANならボトルネックが無いので無料で提供できる。

紙媒体の代替なので、印刷コストの節約分で費用をまかなうことができる。また、無線LANを用いた広告は、車内に直接掲示するのと違って、目障りにならない。車内向けの広告も電子化すれば、広告収入を得ることができる。利益が出るか、少なくとも費用を回収できるなら、新造のN700系だけでなく、700系を改造してサービスを提供することもできるだろう。情報配信のためのプラットフォームを押さえているというのは強みであり、これを活用しない手はない。単にインターネット回線を貸し出すだけでは勿体無い。

車内にウェブサーバーを立てて、JR東海やグループ企業(JR東海パッセンジャーズやJR東海ツアーズ)のウェブサイトを閲覧できるようにしてもよいだろう。現状でも車内からアクセスできるポータルサイトは存在するが、有料の無線LANのサービス利用者でなければ利用できない。車内にウェブサーバーを立てるなら有料にする必要はないのだから、自社サービスを紹介するサイトくらいは無料で利用できてもよいのではないだろうか。

列車運行情報のように、ある程度リアルタイム性が求められるものについてはPDFで配布するわけにいかないので、数分おきに車上と地上とで同期することになるだろう。また、インターネット向けと異なり、車内サービス向けに特化した内容にすることもできるし、スマートフォン向けページやiPad向けのページなど、バリエーションを持たせることもできる(ガラパゴスケータイ向けもと思ったが、携帯電話だったら直接外の基地局につながるので意味がない)。

様々な通信機器の中で特に有望なのはiPadである。iPadは通勤で持ち運ぶには大きすぎる反面、旅行で持ち運ぶには理想的だからである。PCと異なり、作業するには向いていないが、ビューアーとしてはよくできている。旅行で持ち運ぶ紙媒体は意外と多い。地図、時刻表、ガイドブックだけでもかなりの重さになる。これが700gのiPad1台で収まればだいぶ荷物が少なくなる。文字の入力にはあまり適していないが、検索程度なら問題なくできる。スマートフォンと異なり、まる1日バッテリーが持つので、外で使うのに適している。ビジネストラベラーにとっても、仕事用のPCと私物のPCの2台を運ぶのは難しいし、さりとて現在はセキュリティ上の理由で仕事環境と個人環境とを分離する必要があるので、私物として持ち運べるのはせいぜいiPad程度である。

iPad向けに情報を提供するならPDFの方が有利である。ウェブはサーバにアクセスしたときにしか表示されないが、PDFファイルは保存されるからである。ウェブのHTMLファイルをわざわざ保存するのは面倒である。特に広告媒体は末永く閲覧してもらえる方がよい。

ゆくゆくは、新聞や雑誌も電子化して販売できるとよいだろう。新幹線車内では暇潰しのニーズが大きいので、飛ぶように売れるはずである。文庫本、新書本、漫画くらいまであれば申し分ないが、ディスクやサーバのキャパシティ次第である。HDDなら数TBものもでも安価に入手できるが、乗り心地が良くなったとはいえ鉄道車両の中は揺れるので、SSDの方が安全だろう。となるとおのずからディスク容量は限られる。ディスク容量が無尽蔵にあればAppleと組んで音楽や動画を販売することもできるかもしれないが、それは新幹線車内にデータセンターを設置するのと同義なので、現実的ではないだろう。

有料コンテンツを提供するとなると、課金の問題が伴う。どのように実装するかにもよるだろうが、課金に関する通信だけはインターネットを通す必要があるかもしれない。クレジットカード番号を入力するのは面倒なので、エクスプレス予約のポイントから引き落とすことができれば便利である。事前にポイントを購入できるようにしておけば、課金の問題を解決しやすい。あるいは、駅売店や車内販売でプリペイドカードを販売するのもよいだろう。車内販売はともかく、駅売店で買うなら新聞や雑誌を直接買ってもよいのだが、紙とはいえかさばるし、読み捨てのものなら電子データで購入する方が後が楽である。

【2014年5月30日追記】
ついに実現した。JR東海のプレスリリース「東海道新幹線 車内コンテンツ閲覧サービスの実証試験について」参照。最初はN700Aの5編成のみでの実証試験だが、かつて自動販売機が設置されていたスペースにコンテンツサーバを立てて、そこで動画や電子書籍を提供している。実証試験ということもあり、コンテンツはすべて無料である。しかも、新幹線の乗車時間に暇つぶしをするには十分なコンテンツが提供されている。

【2014年9月23日追記】
2014年9月1日から離着陸時の電子機器の使用に関する制限が緩和されるのに合わせて、JALでも「JAL Sky WiFi」と称して無線LAN経由でのコンテンツの提供を開始している。シートテレビは維持費がかかるし故障しやすいし、老朽化も早いし、それに何よりも座席に電子機器を設置すると本体重量およびケーブル重量がかさむので、そのようなハードウェアを設置せず乗客が持っているスマホを使ってもらう方がいろいろな面で有利なのだろう。

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