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もしかして人間の認知能力を考慮したらローテクな車の方が安全なのではないか

自動車はより安全な方向に進化してきた。シートベルトやエアバッグのように衝突時に乗員を守る装備がつけられ、また、後ろや横からの衝撃に対してボディを頑丈に作るようになった。衝撃を吸収するためにクラッシャブルゾーンが設けられ、特に前方は歩行者保護のために壊れやすく作るようになった。ブレーキが利かない場合に備えてABSが設置された。壁の手前でアクセルを踏んでも誤操作を判断して加速しないようになった。車線からの逸脱を警告し、時には自動で車線からの逸脱を阻止することもできる。パーキングセンサーが取り付けられ、ぶつかりそうな場面では警告が発せられる。衝突を避けるための自動ブレーキも装備されるようになっている。

安全装備の歴史と並行して大きくて重い車を快適に運転できる技術も発達してきた。ガソリンエンジンの負圧を利用したブレーキ倍力装置によって、少ない踏力で大きくて重い車を減速させることができるようになった。パワーステアリングによって、大きくて重い車でもハンドルを切って曲がることができるようになった。ATの性能が向上したことで、変速段数が増え、高い速度でもエンジンの効率の良い領域で運転できるようになった。

これらを列挙してみると、正常な判断力を持つがヒューマンエラーの可能性を持つドライバーのヒューマンエラーに対する機械のバックアップが強化され、正常な判断力を持つドライバーが運転する分には随分安全かつ快適になってきたように思える。おかげで、大きくて重い車を高い速度で走らせても致命的な事故が起きにくくなった。

ひるがえって、正常な判断力を持たない人でも大きくて重い車を高い速度で簡単に運転できるようになってしまったおかげで、むしろ危険になったのではないだろうか。正常な判断力を持たない人が凶器を振り回せば人を殺すリスクが高くなる。昔から言われているように車は走る凶器である。時速40kmで走る1tの車に比べて、時速80kmで走る2tの車の運動エネルギーは8倍である。

その一方で、車無しには暮らせない地域もある。高齢者の運転免許更新に際して技能検定を導入するというのは公道の安全を確保する上では理想的だが、ではそれで運転免許を持てなくなってしまった人はどうなるのだろうか。車無しでも暮らせる地域に移住してもらえればよいが、そんなに聞き分けの良い人ならとっくにそうしているだろう。ドライバーの高齢化によって車社会が破綻することを見越して、個人の移動のニーズを抑制するような社会が実現していればよかったのだが、無策なまま車社会が危機的な状況に陥ってしまった。運転免許を更新できない、移住もしない、車無しでは暮らせないという状況に置かれた人が行うのは無免許運転である。昔の高齢者は車を運転しなかったらから徒歩と公共交通機関での移動を受け入れたが、一旦車の味をしめてしまった人に車の運転をやめさせることは難しい。自動運転の車なら比較的安全だが、理想的な自動運転車ですら人間の関与を全く無くすことはできない。間違った目的地を入力すれば正しい目的地に到着できない。入力された目的地に向かって自動運転車が適切に移動していても、乗っている人が途中でトイレに行きたくなることだってあるし、途中で見かけた店に立ち寄りたくなることもあるだろう。有人運転のタクシーならドライバーが機転を利かせてくれるだろうが、無人運転の自動運転車に経由地の追加を入力するのはそう簡単ではない。

となると、万一認知能力に問題のある人が運転してしまっても大事に至らない車がどのようなものなのか考えてみた方がよいのではないか。そもそも機械とは人間の身体能力を拡張するための道具である。徒歩であれば時速4km程度なのでまる1日歩いてもせいぜい40kmくらいしか移動できない。自動車なら一般道を走行しても40kmの距離を1時間で移動できる。人間が徒歩で持てる荷物はせいぜい10kg程度だが、車に荷物を積むなら100kgの荷物を積むこともできる。その一方で、歩行者がぶつかっても大して影響ないが、1tの自動車が時速40kmで走れば人を殺すリスクがある。自動車は歩行者と比べて速度10倍~20倍、質量20倍だから、運動エネルギーは2000倍~4000倍である。健常者なら人を殺すリスクに比べて身体能力の拡張によって得られる便益の方が多いだろうが、認知能力に問題のある人の身体能力を拡張すれば、人を殺すリスクが増大するので、身体能力の拡張によって得られる便益を正当化しにくくなる。認知能力に応じて身体能力を拡張する度合いが自動で調整される仕組みが欲しいところである。

昔の車は小さくて軽くて、そして性能が良くなかった。その一方で今の車ほど危険でもなかった。変速機はMTだから減速時にはクラッチペダルを踏んでおり、間違ってアクセルペダルを踏んでしまってもエンジンの動力が伝達されない。シフト操作を間違えればエンジンが止まるのでフェイルセーフである。AT車と異なり、アクセルペダルを踏まないのに勝手に車が前進することもない。その代わりエンジンが止まりやすかったので、踏切手前での一時停止が義務付けられた。ドライバーの意図に反した動作をしないし、相応の運転技量が無ければ運転できない。運転免許返納を渋る高齢者は運転技量を過大評価する傾向があるので、「そんなに運転に自信があるならMT車くらい当然運転できるでしょ。AT車なんて女子供向けだよね」と煽ればよい。

乗用車にディスクブレーキが導入された頃からブレーキ倍力装置が導入されるようになり、ブレーキの踏力を10倍ほどに増幅することができるようになった。すなわち、自動車の運動エネルギーが10倍になっても安全に停止できるようになったということである。これは事故を起こしたときの運動エネルギーも10倍になったことを意味する。ブレーキ倍力装置が無ければ、安全な運転速度は3分の1程度にまで低下する。あるいは、安全に運転できる車の重量が10分の1にまで低下するともいえるが、スバル360の重量が385kg、メッサーシュミットKR200の重量が242kgであることを考慮するとあまり現実的な数字ではない。

パワーステアリングが導入されたことで太いタイヤを履いていても軽い力でステアリング操作をできるようになったが、パワーステアリングが無かった頃の車は小さくて軽くてタイヤが細かった。軽トラの最下位グレードではパワーステアリング無しなので、軽自動車規格であればギリギリパワーステアリング無しでも運転できるだろう。

例えば、スバル360くらいのサイズで、MTでブレーキ倍力装置無しパワーステアリング無しであれば、今の軽自動車の半分の重量だから、それだけでも運動エネルギーは半減する。運転速度が半減すれば運動エネルギーは4分の1になるので、重量が半減することを合わせて運動エネルギーが現代の軽自動車の8分の1に、現代の普通乗用車の30分の1になる。人間の身体能力の自然な延長線上でしか運転できないので、万一事故を起こした際の影響はゼロにはならないもののだいぶ軽減される。

エンジン排気量が360ccだった頃の昔の軽自動車規格を復活させて、普通自動車免許の実技試験に落ちて免許を維持できなくなった人への救済措置を講じればよいのではないか。その代わり、高齢者の普通自動車免許の更新に際して技能検定を導入したり、普通車の安全装備のレベルを上げる等して、普通車に相応の安全を確保する。これは従来からの乗用車の安全性能の進歩の延長線上に位置する。これなら車無しでは暮らせない地域に住む高齢者が万一事故を起こしてもだいぶ影響が軽減される。大人4人まで乗ることができて荷物を積むこともできるし屋根もついているので原付自転車よりもだいぶ機能的であり、最低限の移動のニーズを満たすことができる。長距離の移動には適さないが、長距離の移動には公共交通機関がある。最低限の移動手段の確保という意味で、税制上の優遇措置があってもよいだろう。その代わり、高速道路や自動車専用道路を走行するには危険なので、走行禁止にした方がよい。並行する一般道を走行すれば移動の手段は確保される。これこそが車社会の高齢化が進んだ現代にあるべき軽自動車規格である。N-BOXのような普通車に匹敵する優秀な車に敢えて軽自動車規格を当てはまる意味はない。そのような車(というか現代の軽自動車の大半)は激変緩和措置を講じた上で普通車に吸収すればよい。

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