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資産を所有するということ

市場経済が発達するにつれて財やサービスの市場が利用可能になってくる。そうすると従来は資産を所有しなければ実現できなかったことであっても、財やサービスのみを調達できるようになる。これが分業の利益であり、例えば農場を所有しなくても農作物を購入できるようになるし、世界各地に館を所有しなくてもサービスとしてホテルに泊まることができるようになる。我々は無意識であってもこのような分業の利益を享受している。

サービスとして調達すれば、利用するときにしか費用負担が発生しない。資本の稼働率が高くなればその分一人当たりの調達コストが下がる(反対にほぼ常時一人で稼働させるような場合には共有のメリットが無いので長期のレンタルやリースのように排他的に使用する方が有利である)。

かつて自動車で移動するためには自ら自動車を所有する必要があった。しばらくしてリースの市場ができ、レンタカーの市場ができ、さらにカーシェアリングの市場ができたので、小口での調達をしやすくなった。資産運用目的の場合、高額な実物資産も証券化されれば金融商品として小口での調達が可能になる。船舶の世界は昔から分業が確立していて、所有者と管理会社と利用者とが分離している。

サービスの市場が発達しているのは物が潤沢にあるときで、いざ需給が逼迫すると誰しも自分で使うことを優先させるから所有権すなわち最終処分権を持っている方が有利である。戦前の東京は空き家だらけだったから家は借りるものとされていたが、戦後は空襲と人口流入で住宅が不足するようになり、持ち家願望が発生した。東京への人口流入が一段落した後でも、日本の住宅は経済的に陳腐化するので依然として新築されている。一方、人口過疎地では既に家が余っており、家を借りることもできるが、こちらは住宅購入費用が極端に安いのと、固定資産税の負担も小さいので、買ってしまった方が安くつく。

もちろん、サービスとして切り売りされている場合であっても資産を自ら所有する方が費用対効果の面で優れている場合もあろう。しかしそのようなときは費用対効果を考えた上でそのような結論を下すはずである。少なくとも、企業が資産を所有するかどうか意思決定する際には相応の比較検討がなされていることだろう。

翻って個人の資産所有に関しては、単純に金銭面では説明をしにくい。企業財務の世界ではサービス化や小口での調達がごく当たり前に語られている一方で、個人の資産所有の世界は周回遅れの議論がされているような印象を受ける。田舎では車を所有する方が効率的だとしても、都市部に住んでいて平日に電車通勤しているなら車を所有するのは金銭面では割に合わない。もしあるとすれば、資産を所有している状態はそれ自体が豊かさを実感できるという満足感だろう。

しかしそもそも資産を所有する状態が果たして豊かなのだろうか。資産を所有したら管理しなければならない。管理をするには時間と労力がかかる。そうすると今度は稀少資源である時間を犠牲にすることになり、いつの間にか資産を管理することが仕事になってしまう。資産はあくまでも豊かな生活のための一手段にすぎない。

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