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一票の格差の是正方法について(その1)

一票の格差の是正というと、従来は選挙区の区割り変更という形で行われてきたが、これは過疎地の選挙区を広げ、過疎地の議席を減らすという形で行われてきたため特に過疎地選出の議員に負担が大きく、一票の格差を迅速に是正するには難がある。

一票の格差を是正する方法としては以下のようなものが挙げられる。

  1. 選挙区の区割りの変更
  2. 有権者人口に応じて議員の議決権に係数をつける
  3. 地域別選挙区を廃止して年齢別選挙区等の他の切り口で選挙区を設ける
  4. 選挙区を無くして全国区のみにする
  5. 議員選挙を廃止して直接民主制にする
1以外は現時点で採用されていない方法ばかりだが、それは情報技術を活用しない限り事務コストが高すぎて実現可能性が無かったからである。しかし情報技術の発達によって実現可能性が増してきたので、そろそろ検討してみてもよいのではないだろうか。ここでは1から順にそれぞれの方式の長所と短所に触れてみよう。

まず、1の選挙区の区割りを変更する方式についてだが、長所は法律によって各選挙区の地域を明示しやすいことと、情報技術を一切必要としないことである。短所は以下の通り。
  1. 区割りの変更による対処では一票の格差が残る。既存の自治体の区割りをベースにする限り、格差を最小限に止めようと努力しても2倍くらいの格差が生じる。
  2. そもそも地域の人口は常に変化するので、ある時点で格差を是正しても、人口が変化したらまた格差が発生する。場当たり的な区割り変更をしても抜本的な解決にならない。実際、今後は過疎地で急激に人口が減少することが予測されているので、区割り変更を繰り返さなければならない。
  3. 過疎地の選挙区が広大化する傾向があり、政治活動が地理的に難しいのみならず、新規に選挙区となった地域で新たに地盤を築くための労力が必要になったり、今まで選挙区だった地域が選挙区でなくなることによってそれまでその地域に地盤を築くための努力が無駄になる。区割りを頻繁に変更するとさらにその影響が大きくなる。
特に3は過疎地での議席の減少以上に候補者に負担をかける。選挙区の区割り変更はただでさえゼロサムゲームなのに、政治活動の負担も増すとなればマイナスサムゲームであり、これでは一票の格差の是正が進まないのも無理もないことである。そのため、裁判で選挙無効にならない程度の遅々としたペースで選挙区の区割りを変更して痛みを最小限に留めるようにしていたのが今までの対応だったのではないだろうか。

次に、2の有権者人口に応じて議員の議決権に係数をつけるという方式だが、これは議員の議決権を有権者人口に比例するようにするということである。代議士は有権者から委任を受けているという考え方なら各代議士はその選挙区の有権者の人数分の委任状を持っているということだから、それを議決権の数としてもよいし、もっと単純に、平均的な人口の地域の議決権を1に基準化して、議決権が1.2とか0.5とかも取りうるとしてもよい。大切なのは、代議士の議決権が有権者人口に比例していることである。ではこの方式の長所と短所を見てみよう。長所は以下の通りである。
  1. 有権者単位で見たときに一票の格差が原理的に発生しえない。一票の格差の是正を目的とするならこれで十分である。
  2. 選挙公示日時点に有権者人口が確定しているので、各議員の議決権も確定する。議員の議決権マスタデータを作っておけば、次の選挙までそのマスタデータを使える。各議員が賛成反対のどちらかに電子投票したら、議決権が電子的に集計され、賛成が議決権ベースでどの程度の比率なのかがすぐにわかる。ただし補欠選挙等で有権者人口が変化している場合もあるだろうから、そういうときには総選挙公示日時点の有権者人口に固定する方が事務的に容易だろう。
  3. 選挙区の区割り変更が不要。
  4. 地域別選挙区以外のいかなる選挙区の区割りに適用できる。
  5. 議員定数に依存しないので、議員定数が変更されても実務への影響が無い。そのため、選挙区の広さを一定以内に留めることを目的に議員数を増やすことも可能。議員定数の増加は時代に逆行するものの、定数削減とは逆に定数増は議会の同意を得やすい。
  6. 必要な情報技術のレベルが低い。最低限、議決権マスタデータ入りのエクセルシートを用意して手作業で各議員の投票を入力するだけでも議決権ベースの投票数を集計することができる。多くの議会で電子投票が採用されているので、最低限のシステム改修で実現できる。
短所もある。大きく分けて、議決方式に関するもの、議決権の配分方法に関するもの、および法改正に関するものである。
  1. 当然のことながら、議員の議決権に格差が生じる。しかし重要なのは議員の一票が平等であることよりも有権者の一票が平等であることである。議員はあくまでも有権者から委任されて投票しているに過ぎない。
  2. 木板や起立といった議決方式を利用できず、常に電子投票しか利用できない。ただし儀式的に同様の方式を採用することはできる。たとえば木板を積み重ねる代わりに議員のIDカードを賛成反対それぞれのカードリーダーのどちらかにかざすとか、起立したらセンサーが感知して議決権の総数を集計するといった方式もありうる。しかしその手の儀式的な議決方式の目的は各議員が賛成反対のどちらに投票したかを可視化することなので、それならば誰がどのような投票をしたかというデータを直接公開する方が時代に合っているのではないか。
  3. 議会内では秘密投票ができない。なぜなら、各議員と有権者人口に基づく議決権とが紐付いているため、議決権の数によってある程度推測がつくからである。しかし議会選挙と異なり議会内で秘密投票をする必然性は乏しい。本来有権者には選出した議員が有権者の意向に沿って活動をしてるかどうかを知る権利があるからである。また、重要な議案には党議拘束がかかるのが常なので、通常はどの党がどのような投票をしているのか可視化されている。強いて言えば党議拘束に違反したらすぐにばれてしまうが、現状でも党議拘束違反はばれているので影響は無い。
  4. 1つの選挙区から1人の議員のみ選出する小選挙区の場合にはシンプルだが、1つの選挙区から複数の議員を選出する中選挙区の場合には、議決権の配分方法に議論の余地がある。例えば有権者人口を当選議員の得票数で比例配分するとか。
  5. 比例代表制で選出された議員の議決権の配分について議論の余地がある。比例代表制でも地域別選挙区があるので、選挙区人口の格差は調整する必要がある。同一選挙区同一政党の議員の議決権は同じであってよいだろうが、政党によっては名簿順位が上位の候補者により多くの議決権を配分したいと考えるかもしれない。
  6. 小選挙区や中選挙区と比例代表制と併用する場合に、比例代表議員との議決権の配分について議論の余地がある。小選挙区の方が当選が難しいのだからそれなりの議決権を持ってもよいという考え方もあるだろうし、反対に比例代表制の方が死票が発生しにくい分だけ民意を正しく反映しているという考え方もあるだろう。
  7. 有権者人口に比例させるか投票者人口に比例させるか得票数に比例させるかについて議論の余地がある。すなわち、棄権者や死票をどう扱うかということである。棄権は選挙結果への白紙委任だから議決権に含めても問題ないだろうが、対立候補の得票分も総取りすることに関しては賛否があるだろう。なお、得票数に比例するようにする場合には、得票数が議決権に直接反映されるため、不正選挙を防止するための仕組も同時に強化しなければならない。
  8. 議決方式の変更だけなら衆議院規則・参議院規則の改正だけで対応できるだろうが、各議員の議決権に差をつけるとなると、最低限国会法の改正は必要。しかしそれでも後述の3、4、5の各方式に比べれば法改正のハードルは低い。
実務的な課題はいくつか残っているが、議決権の配分方法について議論の余地がある部分については、議論した上で意思決定してしまえばよい。

以上、(その1)では1の「選挙区の区割りの変更」と2の「有権者人口に応じて議員の議決権に係数をつける」という方式のそれぞれについて長所と短所を見てきた。(その2)では、さらに踏み込んで、現在利用できる情報技術を最大限に活用することで選挙制度をどこまで抜本的に改革できるかを見ていきたい。

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