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名前を取り戻せ

会社に勤めている人はごく当たり前に本名で仕事をし、名刺にも本名が書かれていることだろう。しかしその結果、個人として行ったことが会社の看板に傷をつけることもありうる。法に触れることをしたり著しく公序良俗に反することをしたり対外的に所属組織を公然と批判すれば当然そうなるが、それに限らず、個人としての何気ない発言もまた、会社の看板に傷をつけることになりかねない。物事を悪意的に受け止めようと思えばいくらでも可能だからである。

なので個人として気軽に発言したかったら本名を伏せるのが最も安全である。しかしそうなると会社に名前を奪われたようなものである。名前を人質に取られて個人として当然の権利も行使できないとなったら、それではまるで会社の奴隷ではないか。個人としてペンネームを用いるのは本人の自由だが、対外的に所属組織を伏せてもなお本名を用いることが会社の看板に影響を及ぼすものとして制限されるなら、それは「仕事は仕事、個人は個人」という公私の区別を越えた人権侵害である。

そのような事態が発生することの根本原因は、従業員が本名で仕事をしていることである。そもそも、目立つ立場の人は本名とは別に仕事用の名前を使って仕事をするものである。芸能人は芸名を使って仕事をするし、文筆業者はペンネームを使って仕事をする。仕事用の名前はあくまでも仕事人格を表すものであり、本名は個人の人格を表すものとして区別されている。仕事の内容の違いによって複数の芸名や複数のペンネームを使い分けることもある。それほどまでに名前は人格を表すのである。自営業者の場合は本名で仕事をする傾向があるが、それはおそらく自らが経営者であるため、仕事人格と個人の人格とを使い分ける必要があまり無いからであり、新興宗教の教祖のようにビジネスネームで活動することだって可能である(なので、本名を会社に奪われるのが嫌なら自営業者になるのが一番手っ取り早かったりする)。

ネットによって情報伝達のスピードと範囲が拡大し、本名での言動が会社やステークホルダーに影響を及ぼすものならば、それは芸能人並のネームバリューがあるということだから、当然ビジネスネームがあって然るべきである。そもそも仕事をするのに本名は不要である。あくまでも組織の方針に沿って所定の仕事をすればよくて、その従業員の名前が何であろうと本質的ではない。他の人と区別がつくなら、その人の名前が「山田太郎」であっても「鈴木一朗」であっても構わない(もちろん変なビジネスネームをつければ本人に跳ね返ってくるので命名には慎重を期す必要があるが)。例えばレンタルのニッケンでは創業者の方針によりビジネスネーム制が採用されている。名刺には本名が併記されるので、どちらかというとその個人のブランドネームみたいな位置づけだが、それでも仕事ではビジネスネームで呼ぶならわしになっている。

ビジネスネームによる言動は、あくまでも所属組織を代表するものでしかなく、個人の思想信条および嗜好とは無関係である。例えば個人として君が代を歌いたくない人がいるとして(是非はともかくそういう個人の嗜好として)、そうはいっても学校の教師が卒業式のような公式の場で国歌斉唱の場で起立すらしないとしたら、それは組織の方針に反する。そういうときに「それはあくまでも仕事人格のもの」と割り切ることができれば互いに無用の摩擦を回避することができる。

個人の人格と仕事の人格とが完全に分離されていれば、組織人としての言動が個人の人格を損なうものでないと同時に、個人としての言動が何であれ組織の看板には傷がつかないので、これは組織の側にとっても利益になることである。例えば個人が痴漢をしてつかまっても、それが自社の従業員であることが知られていなければ「当社の関知しないこと」としらを切ることができる。人間には多様な考えがある以上、個人の考えと組織の方針とが完全に一致することなどありえない。にも関わらず個人の思想信条まですべて組織の方針に合わせようという全体主義的な発想をするから本末転倒なことになる。本来ならステークホルダーの利益のための手段として組織が存在するはずなのに、いつの間にか組織のために人間が存在することになってしまう。そういう全体主義から訣別するためには、名前を分けることで仕事人格と個人の人格とを完全に分離してしまうのがよい。

個人情報保護が求められるようになって以来、住所や電話番号といった本名以外の個人情報は直属の上司と人事部門しか知ることができないようになっている。それに、他の情報と紐づくことによって個人を特定することが可能な情報という定義上、所属組織と本名とが紐付いていれば、本名は紛れもなく個人情報である。それならば本名も個人情報の一部として秘匿の対象にすべきだし、そうしても実務への影響は無い。現状でも在日韓国朝鮮人には慣例として通名が認められているし、結婚して姓の変わった女性が旧姓で仕事をすることも認められているのだから、戸籍名と異なるビジネスネームの使用を他の従業員にまで拡大する実務的な受皿は整っている。また、業務委託や派遣の場合、個人をバイネームで指名できないという制約から起用時には名前を伏せてあるが、それでも実務に何ら影響しない。給与・賞与・従業員立替金等の支払に際しては本名を伴う銀行口座の情報が必要だし、人事管理上本人の身元確認も必要だが、そのような情報は人事実務以外には何ら必要ないので人事実務部門のみが保有すれば十分である。

既に本名で仕事をしている人が大半である以上、ビジネスネームへの移行期には混乱が伴うだろうが、会社なんて数年おきに人事異動があるし、担当する取引先も数年すれば変わる。それに企業には毎年退職者と新規就業者がいて、しばらくすると人も入れ替わるので、数年から10年くらいの移行期間を経ればビジネスネーム制を定着させることができるのではないだろうか。

最大のネックは個人の意識のありかただろう。自ら奴隷化されることを求める人もいるし、会社の肩書きを自分のアイデンティティだと思っている人もまだいる。そういう人は「自分はこんなに立派な主人に仕えている」ということを自慢しているわけで、まさに「奴隷は自分の鎖の太さを互いに自慢するようになる」の世界である。同様に、人を判断する材料としてそういう情報を必要とする人もいる。本来、個人を判断するためにはその人の言動で判断すればよいはずなのだが、もっとわかりやすい情報を得てわかったつもりになりたいのだろう。

もっとも、会社の肩書きと本名とを紐付けたい人は引き続き本名で仕事をすればよいまでのことであり、全員にビジネスネームの使用を強制する必要もあるまい。芸能人の中にも本名で活動している人がいるのと同様である。ビジネスネームの使用を求める人に対してそれを認めれば十分だろう。しかし、「本名を提供することが企業に対する忠誠心の表れである」という見方が定着してしまうとビジネスネームの使用を萎縮させることになり、所定の効果が得られないので、ビジネスネーム使用者を差別してはいけないというルールは必要だと思う。最初から本名なのかビジネスネームなのか区別がつかないような仕組にするのが最も安全だろう。特に採用や人事評価を担当する人が本名を決して知り得ないよう、個人情報を保有する人事実務部門と、採用や業績評価を行う人事評価部門とを分離して情報を遮断するといった仕組にする必要がある。

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