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中立命題と財政危機

ここ20年間で景気対策のために財政出動を繰り返した結果、景気浮揚効果が出ないまま財政赤字だけが膨らんで、財政破綻の危機に瀕しているそうである。

景気対策に財政支出が無力であることはリカードの中立命題やバローの中立命題として知られている。政府の財政支出には税の裏づけが必要なので、景気対策で政府が財政支出を増やすと、合理的な経済主体は将来の増税に備えて貯蓄するので、財政支出と同額の消費が減るというものである。実際、この20年間で景気浮揚効果が無かったことから、これらの中立命題は実証的に支持されているように見える。

しかし、もしこの命題が正しいとするならば、財政破綻の危機は無く、実体経済への影響も無いことになる。なぜなら、合理的な経済主体は、将来の増税に備えて既に貯蓄をしているはずだからである。マクロ経済学のいまどきの常識といわれているDSGE(実はただの価格理論)も、時間を通じて最適な消費水準を決定する合理的な経済主体を想定しているため、現代風の分析道具で装っても本質は同じである。

中立命題の説くところによれば、財政破綻を避けるために増税しても、単に貯蓄の名義が個人から政府に移るだけであり、消費水準は変わらない。いつ増税しても同じである。合理的な経済主体は、クレジットカードで買い物をするときに、いつか支払いのときが来ることを予見して節制する。一括払いだろうとボーナス一括払いだろうと同様である。銀行口座に残っている預金は、たとえ今は自分名義であっても、事実上カード会社に差し押さえられたも同然であり、あとはいつ引き落とされるかの問題でしかない。カード破産するようなファイナンシャルリテラシーの無い者ばかりなら乗数効果があるのかもしれないが、幸か不幸か平均的な日本人はもっと利口らしく、大半の人はカード破産しない。バラマキ財政でくだらない買い物をさせられるときも、その支払いを予見するはずである。合理的な経済主体は、誰も使わない高速道路を買わされるときには、アップルのクールなガジェットを買うのを諦める。私がMacBookもiPhoneも持っていないのは、きっとバラマキ財政のせいに違いない。

実体経済の落ち込みにより、将来の増税に備えた貯蓄が目減りしたという考え方もあるかもしれないが、合理的な経済主体は将来に対する予想の変化に敏感に反応して消費経路を随時最適化しているため、予想に織り込まれている限り大幅な変動は生じない。日本経済の長期低落傾向は予想の範囲内なので、それを予想できていれば消費水準は変わらない。仮に将来に対する予想を徐々に悲観的なものに更新しているとしても、それに応じて消費水準を徐々に下げるだけなので、急激な変化は起こりえない。

世代間の所得分配の不平等を指摘する人もいるだろう。たしかに、国民経済内部の不均一性に根ざした外部効果は無視できない。しかし、バローの中立命題の説くところによると、慈悲深き老人世代は子孫を慮って所得を移転してくれるそうである。乗数効果が無いところから察すると、どうやらそうなのかもしれない。

新古典派マクロ経済学を信ずる者は救われる。アーメン。

そうは言っても、政府のバランスシートをきれいにするためにはどこかで増税することは不可避であり、そのためには
1)国債のデフォルトないし預金封鎖
2)直接的な増税
3)インフレタックス
が考えられる。このうち、インフレタックスは老人に優しくないから政治的に無理と言われている。直接的な増税もまた、政治的にはリスクである。さりとて国債のデフォルトや預金封鎖は混乱を招く。いずれそうなることはわかっていても、今そうすることには踏み切れないものばかりである。不均一性の中に生きる合理的な経済主体は、払わずに済む金は払わずに済まそうとするからである。

そこで大抵の人は暗黒の未来を予見するわけだが、しかし諦めるのはまだ早い。まだ相続税がある。相続税が他の税と異なるのは、死者に対する課税であることである。死人に口無し。現状でも50%というとんでもない税率であり、老人の資産の半分は事実上既に政府のものなのだが、これを90%に引き上げることは、他の税率を引き上げることよりもはるかにたやすい。増税といってもためらうことはない。今まで20年間うるさい老人を黙らせるためにくれてやった金を取り返すだけのことである。政治的影響力の強い老人にとって、自分が死んだ後にどれだけ課税されようとも気にならない。一方、相続税の恩恵を受けるであろう若い世代には政治的な影響力が無い。それでいて、ターゲットは比較的豊富な老人の資産である。老人世代が若年世代を搾取するのを見過ごしているのは、後で相続税でがっぽり課税するためではないかと勘繰ってしまう。

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