通勤特急の走りは小田急ロマンスカーである。夕方に新宿に到着して相模大野の車庫まで回送する列車を町田行のあしがら号として営業運転したら好評を博した。それをJRも真似て回送する特急車両をホームラーナー等の着席通勤列車として走らせるようになった。東海道線では特急踊り子号の185系を使って湘南ライナーを走らせるようになった。もともと特急踊り子号は週末に乗客が多くて平日に乗客が少ないので、平日はむしろ湘南ライナーの方がメインで昼間に間合いで踊り子号として走るような状態だった。
湘南ライナーは当初300円の乗車整理券で乗車できたので座席を確保しにくい状況になった。そのため、湘南ライナー専用車両まで作られるようになった。それが全車2階建てで10両編成の215系電車である。215系は当初は日中には快速アクティーとして東京熱海間で使われたが、2扉で乗降に時間がかかることから嫌われて、結局朝晩の湘南ライナーとして毎日1往復するだけの運用になってしまった。この程度の稼働だったら客車の方が経済的だったのではないか。客車は装備が簡素で新造コストも維持費も安いので、稼働率の低い車両に向いている。
ではもし湘南ライナー専用車両が客車だったらどんな感じだったろう。まず東海道線では15両編成が走れるので15両とする。ボックスシートではなく特急普通車レベルの回転クロスシートとする。着席通勤専用車両なのでグリーン車は無し。車体は軽量化のためアルミ製とする。定員着席を前提とした車両なら満車荷重が小さいため、あえて軽量化するまでもないかもしれないが、軽い方が加速が良い。要は14系座席車をアルミ車体にしたようなものである。どうせ直流電化区間しか走らないので、冷房用のサービス電源は電車と同様に架線から取る。本来なら機関車からサービス電源を供給できればそれが一番で、日本以外の国の旅客用機関車というのはそういうものだが、どういうわけか日本には本来の意味での旅客用機関車が無いのだから仕方ない。数両おきにパンタグラフと静止型インバータを設置し、静止型インバータは床下設置とする。
国鉄末期という設定で牽引機や車両の所属を考えると、機関車は東京機関区のEF65-1000番台、客車は品川客車区所属となるだろう。EF66と違って加速性能はあまり期待できないが、どのみち平行ダイヤだし、貨物線経由なら邪魔にもならない。
朝の上り列車は小田原発だが、機回しに時間をかけたくないので、東京駅のブルートレインの回送と同様に、予め小田原駅の側線に機関車を待機させておいて、国府津の車庫からの回送列車が小田原に到着したら待機させておいた機関車を連結させ、東京へ向けて発車する。回送列車を牽引した機関車は側線に入って次の列車を牽引する。これを何回か繰り返す。東京駅到着時も同様の運用で品川客車区まで回送するが、ラッシュピーク時の列車は品川駅止まりにして、臨時ホームから直接車庫に入れる。ブルートレインの寝台車や食堂車と違って最低限の車内清掃で十分なので、数編成留置しても邪魔にはならない。どうしても邪魔になるなら、ラッシュピークを過ぎてから茅ヶ崎や平塚の留置線まで回送だろうか。新宿行は山手貨物線経由で田端の操車場に入れて、昼間はそこに留置する。どうせ昼間には使いみちが無いので夜に出番が来るまで昼寝である。
あるいは、最初から機関車は東京側のみに連結することにして、客車の小田原寄りに運転席を設置すれば機関車の付け替えは不要である。どうせさほど高速運転するわけでもないので機関車が後ろから押すのでも問題なさそうだし、世界各国の近郊鉄道の客車なんてだいたいそんな感じである。
土休日に使い道があるかというと、どうせ15両編成なんて東海道線以外では使い道が無いし、かといって5両編成3本にしたからといって格別使い勝手がよくなるわけでもない。15両編成のまま国府津の車庫で昼寝してもらうしかない。強いて言えば、盆暮れとGWには臨時銀河(寝台急行ではなく繁忙期に14系座席車で走っていたやつ)として東京大阪間を往復するくらいだろうか。
客車はよいとして、果たしてこんなに機関車を確保できるものだろうか。そのときそのときで余っている機関車を使えばよいので、EF65ではなくEF81が出てきたり、はたまたEF64が出てくることもあるかもしれない。機関車を廃止するという方針のもとでは、実質的に機関車でありながら、あくまでも事業用電車であると主張するような牽引車も出てくるかもしれない。その際にはぜひ牽引車の側に客車用のサービス電源設備をつけてほしいものである。しかしそうなると先頭にクモヤが1両いて、後ろに15両のサハやクハがくっつているという形になり、電車という扱いになるだろうから、そもそもの「もし客車だったら」という想定からは外れることになる。