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アウトソーシングの意義

アウトソーシングの意義としてよく言われるのは、「経営資源を本業に集中させる」「本業と関係ない部分は安い業者に外注する」ということである。しかし本当にそれだけだろうか。

通常、組織にとって重要な仕事は第一線級の人材が担う。重要度の低い部分は二線級・三線級が担う。これに対してアウトソーサーにとっては商売なので、第一線級の人材を投入するため内製するよりも生産性が高い。社内の人に仕事をさせようとすると、できない理由ばかりを並べ立てるが、アウトソーサーは「できません」とは言わない。安いだけでなく効率も良いのである。効率が良いならもっと高くても商売になりそうな気がするが、事務派遣やコールセンター等のビジネスは競争が激しいので相場並みになる。方や内製の場合には、正社員をクビにできないので、競争圧力が働かず、というか既に競争に敗れて失うものが無い人ばかりなので、高くて非効率的になる。

アウトソーシングの真の意義は、利潤動機の働かない内勤の仕事に利潤動機を導入することで、優秀な人を投入するインセンティブや真面目に働くインセンティブを導入することにある。逆に言えば、客先に出て金を稼ぐような仕事では、アウトソースしなくても真面目に働くインセンティブがあるので、たとえアウトソーサーにコスト競争力があっても、アウトソーサーが優位性を発揮するのは難しい。

日本企業では正社員を解雇できないので、余った人(主に中高年の客先に出せない人)に二線級・三線級の仕事をさせる。どうせ人件費はすべてサンクコストなので、限界費用はゼロである。それに対して外注すると費用がかかるので、限界費用だけを見ると、実はアウトソーシングの方がお金がかかるのである。なぜタダを使える人を使わずに外から人を買ってくるかといえば、品質と費用との間にトレードオフがあるからである。

正社員の解雇が事実上不可能な日本でアウトソーシングが活用され、正社員の解雇が容易な米国で内製比率が高いというのは、労働組合の強さだけを見れば疑問の余地がないが、かかっている費用を見ると不思議である(日本の労働組合は会社別なので既存の従業員しか保護しない。既存の従業員の食い扶持さえ確保されていればアウトソーシングに反対しない。これに対して米国の労働組合は業種別なのでジョブ全体を守ろうとする)。

たとえ重要度が低いといっても、組織にとって完全に不要な機能なら最初からそのような機能を持たないだろう。必要である以上、多少お金がかかっても一定の品質を確保しなければならないということなのだろう。客先に出て金を稼ぐような重要な仕事は第一線級の人材が担い、重要度は劣るが組織にとって必要な内勤の仕事はアウトソースし、箸にも棒にもかからない人にはアウトソースするにも値しない仕事をさせることになる。

かつてIBMが「ユーザー側情報システム部門」というのを作ろうとした。ベンダー丸投げだと顧客満足が得られないため、ユーザーとベンダーとの間で通訳を行う機能をユーザー側に持たせようとしたからである。しかし、本当に仕事のできる人がユーザー側情報システム部門みたいなぬるい仕事をするはずもなく、逆に使えない人が介在することがボトルネックになってしまった。

業務分社化も似たようなものに見えるが、これはむしろ使えない人を隔離することで、それぞれで利益への貢献度に応じた賃金体系にするためのものである。商売になれば多少は真面目に働くだろうが、クビにできない以上競争原理が働かないし、使えない人に仕事をさせても高が知れている。子会社に出向や転籍させられるのはまだましな方で、子会社に出すと業務に支障するような本当に使えない人は、恥ずかしくて子会社に出すこともできないので、なるべく害のない所に隔離するしかない。

という脈絡で考えてみると、「正社員をクビにできないから非正規雇用化が進んだ」と単純に言い切れない部分もあるのではないだろうか。なぜなら、クビにできないような人を使う場所と、非正規雇用の人を使う場所とは異なるからである。仕事のパフォーマンスにおいては、使えない正社員は既にアウトソーサーに駆逐されている。アウトソーサーの見かけ上の人件費が安いのは競争が激しいからに過ぎないが、この競争の激しさがまさにアウトソーサーの強さの源泉なので、安いことが直ちに悪いともいえない。むしろ、使えない正社員の食い扶持は別の場所から確保されていると考える方が説明しやすいのではないだろうか。

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